(やっぱり、変わった――)

 校庭で同級生達とともに青年の話を聞きながら、文次郎は改めてそう思った。
 彼が卒業してから、三年。
 フリー忍者という何の後ろ盾もない立場で様々な経験をしてきたであろうことが、その口から語られているどんな言葉よりも多弁に、その顔が物語っていた。
 確かな経験に裏打ちされた自信と深み、そして昔のままの明るさ――。
 とても敵わない…。
 そう思ってから、文次郎は己の考えに首を捻った。

 敵うって、何のことだ?
 誰が何に敵うというのだろう。

 ………。

 やはり自分は、無意識に気にしているのだ。
 半助と青年の、関係を。




 放課後の西日の差す正門前は、今日の相談会に訪れた卒業生達を見送る教師や後輩達で溢れかえっていた。
 その中から文次郎がようやく青年の姿を見つけたとき、その傍らには何故かきり丸の姿があった。
 ひどく親しげに言葉を交わしている彼らに文次郎が近付いていくと、きり丸は「じゃあまたね、先輩!」と言い、少し離れたところにいる乱太郎たちの方へ行ってしまった。

 「先輩、きり丸と知り合いなんですか?」

 「ん、まあ、な」

 文次郎の問いに青年は苦笑し、頷いた。
 なんとなくそれ以上は聞けない雰囲気を感じ、文次郎は追及するのをやめる。

 「先輩、今日はありがとうございました」

 「いや。仕事の話っていっても具体的に話せないことも多いし、あまり参考にならなかったらごめんな」

 「いえ、とても参考になりました」

 きっぱりと言った文次郎に、青年は「なら、よかった」と明るく笑う。

 「……」

 しかし文次郎は、自分から挨拶に訪れていながら、まるで喉元が何かに妨げられているかのようにそれ以上の言葉が出てこなかった。
 いつかもう一度彼に会ったら話したかったことが沢山あった気がするのに、今日の昼の些細な出来事が、文次郎の口を重たくしていた。
 そんな文次郎に、青年は何かを考えるように少し黙った後、「あのさ、文次郎」と静かに言った。

 「お前さ…」

 「…」

 珍しく逡巡している様子の青年に、文次郎の胸がざわつく。

 「先生のこと…」

 どくりと心臓が跳ねる。


 “先生”――?


 しかしその続きは、「平太ー、そろそろ行くぞー!」という正門付近からかかった卒業生達の言葉で遮られた。
 そういえば今日集まった卒業生同士で、近くの料理屋で同窓会をするらしいと伊作が言っていた。
 青年はふっと口を噤み、それから友人に「すぐ行く!」と返してから。
 もう一度、文次郎を見た。

 「――文次郎は、絶対にいい忍者になるよ」

 「え…?」

 思いがけない言葉に顔を上げた文次郎に、青年はまっすぐな目で微笑み。

 「だから、楽しみにしてるから、頑張れ!」

 そう言って文次郎の頭に軽く手で触れて、彼は正門の方へ駆けていった。

 あ――。


 師走の風が、青年の手の感触の残る髪を揺らす。
 いつか文次郎の手を引いて歩いた少年の後ろ姿が、その背にふわりと重なった。






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