「ふ…っ…」
口付けながらゆっくりと体重がかけられ、体を布団の上に横たえられる。
上から自分を見下ろす視線がどうにも照れ臭くて、半助は困ったように微笑んだ。
すると平太は少し目を見開き、それから優しく微笑み返してくれた。
「…ぅ…ん…」
かさついた唇が首筋をなぞってゆき、ふるりと震える肌を熱い掌に愛撫される。
体の奥から容赦なく湧き上がってくる感覚に、半助はぎゅ…っと背の下の布団を握り締めた。
息が、乱れ始める。
と、太腿を愛撫していた手が僅かに内側へとずれ、その意味を考える暇もなく、下帯の上からそっと熱に触れられた。
「あ…」
強烈な羞恥が半助を襲う。
今自分がどんな状態になってしまってるか、わかっているから恥ずかしくてたまらない。
「大丈夫、恥ずかしくなんかないよ。…先生、すごく綺麗…」
真っ赤な顔で泣きそうな表情の半助にそう囁き、平太の指がゆっくりと動き始める。
「…っ」
布越しに与えられる愛撫に、半助は歯を噛み締め、声を殺して必死に堪えた。
そしてその熱が十分に高められた頃、平太の手が止まり、緩んだ下帯の隙間から直接その熱に触れられた。
「あぁ…っ」
瞬間、強烈な快感がそこから這い上がる。
再び、平太の指が動く。
「くぅっ!…ン…ンンっ」
直接与えられる強すぎる刺激に、口から声が零れて止まらなくなる。
跳ね上がってしまう腰を優しく押さえられ、半助は震えながら為すすべもなく、さらなる高みへと押し上げられていった。
限界が、すぐそこまで来ていた。
じんと痺れる意識の中、薄く目を開けると、半助の顔をじっと見つめている平太と目が合った。
今、自分は平太に愛されているのだ――
そう感じた途端、予期せぬ激しい感覚が半助の全身を襲った。
「…!!」
次の瞬間、半助は声もなく果てていた。
何度も体を震わせて達する半助を、平太はこくりと唾を飲んで見つめた。
こんなに自分の恋人は、綺麗だったろうか――。
肌を上気させ息を弾ませている半助を、平太は腕の中に包み込む。
「ぁ………へい…た……」
「うん…ここにいるよ…」
こめかみに小さく口付け、安心させるようにそっと腰を撫でる。
半助はぶるっと体を震わせ、喘ぎをひとつ漏らした。
しばらく繰り返し撫でているうちに、次第に呼吸が落ち着いてくる。
呼吸は落ち着いたが――。
「…へい、た……それ、やめ…ろ…っ」
半助が身じろぎ、震える手で平太の手首を掴んできた。
「感じちゃう…?」
「っ、そういうことを言うなよ…!」
真っ赤な顔で睨みつけられ、俺の恋人は綺麗なだけじゃなく本当に可愛い…と平太は満足する。
「いいから、もっと感じて…」
赤い耳にそう囁いて、少し指先を下げ、半助の双丘の奥にそっと触れる。
「っ」
途端、半助の体がはっきりと強張るのがわかった。
「……先生、ここ、はじめて……?」
「あ…、当たり前だろっ!!!」
思わず聞いた問いに、思いのほか元気な声が返ってきた。
……そうか。
はじめてか。
「……なに嬉しそうな顔してるんだ」
怒った声で言われて、口元が綻んでいたことに気付く。
かくいう平太だって男を抱いた経験などないが、半助を前にして、そんな不安などは頭から消え去っていた。
指先に僅かに力を入れ、少しだけ中に埋めてみる。
「ん…っ」
半助が平太の胸に顔を押し付けてきた。その体に先程達したときの柔らかさはなく、緊張でがちがちになってしまっている。
平太は、ゆっくりと指を動かした。
「やだ…っ…へい…っ」
すかさず泣きそうな声で抗議の声があがる。
やだ、と言われても……困った……。
可哀想だが、ここで堪えてもらわないことには、先に進めないのだ。
「今、ここ、痛い…?」
「……」
半助が、微かに首を横に振る。
平太はほっとした。
「ん…じゃあ、気持ち悪いかもしれないけど、ちょっとだけ、我慢できる…?」
半助はしばらく黙った後。
こくり、と小さく頷いた。
平太は微笑んでいい子いい子と頭を撫でてやり、それから痛みを与えないよう慎重に、少しずつ指を奥へと進めていった。
「…っ…ん…」
「大丈夫、怖くない、怖くない」
何の根拠もないそれを呪文のように繰り返しながら丁寧に解していくうちに、次第に半助の緊張が和らぎ。
やがてその唇から艶やかな声が漏れ始めた。
「…んん…ぅん…っ」
受け入れる準備ができつつあることが、指に感じる様子でわかる。
熱いそこは、初めとは比べ物にならないほど柔らかく、平太の指を包み込んでいた。
平太は目を閉じ、苦しい息を吐いた。
そろそろ、平太自身も限界だった。
半助の艶やかな姿態に、すっかり平太の熱は昂っている。
と、視線を感じた。
顔を上げると、半助がじっとこちらを見ていた。
「…先、生…?」
声が、掠れる。
半助は少し息を上げたまま、苦笑するように微笑んだ。
それから、その手がゆっくりと上がり、平太の頬をそっと撫でる。
「……もう……大丈夫……だから……」
「………」
「おいで…平太…」
「っ…」
平太は泣きそうになって、半助の体をぎゅ…ときつく抱き締めた。
初めて抱かれるのだ。
怖くないわけがないのに……。
「………先生……好きだよ………」
「………うん……俺、も………」
平太は、指を抜いたばかりのそこへ、そっと自身を押しあてた。
途端、半助の体に緊張が走る。
平太はそれ以上無理に進めず、半助の髪を優しく撫で、鼻先にちゅっと音を立てて接吻を落とした。
場にそぐわぬ子供にするようなそれに、半助がきょとんと目を丸くし、平太の顔を見る。
一瞬半助の体から緊張が抜けた。
それを逃さず平太は半助の耳元で「そのまま力、抜いてて…」と囁くと、ゆっくりと半助の中へと入っていった。
「あっ……んん…」
半助が眉根を寄せて、堪える。
熱い内部が平太に絡みついてくる。
平太は早く半助の奥へと納まりたい気持ちを抑え込み、半助の背を何度も撫でながら、出来る限りゆっくり体を進めた。
そして、
「……ん…っ」
長い時間をかけて漸く最奥に達し、半助が小さく声をあげる。
平太はふぅ…、と体の力を抜いた。
「……大丈…夫……?」
きつい締め付けに上がってしまう呼吸を落ち着けながら平太が聞くと、半助は微かに頷き、
「……少しだけ…このままで…いい、か……?」
と言った。
やはり、辛いのだろう。
平太は、半助を刺激しないように気を付けながら、そっとその体を腕に抱いた。
半助は瞳を閉じて、体が慣れるのをじっと待っている。
時折、眉根を寄せ小さく身じろぎ、吐息を漏らす。その表情の艶っぽさに、平太は見とれた。
とくん、とくん、と互いの心臓の音が重なる。
今、自分は半助を抱いているのだ。
体中に温かな幸福感が満ちていく。
平太は「せん…」と言いかけて少し考え込み、それから微笑むと、半助の耳元に唇を寄せ、囁いた。
半助――。
半助が、びっくりしたように目を見開く。
続いて、きゅぅと内部が収縮し、その強い締め付けに平太は歯を噛み締めた。
「…ぁ…」
半助が小さく喘ぐ。顔が赤い。
半助の中がじんわりと、平太を優しく愛撫するような動きに変わった。
痺れるような快感が平太の体を駆け抜ける。
……これ以上は、堪えられない……。
「……動いて、いい……?」
暴走しそうな衝動をやっとの思いで抑え込み聞くと、半助が、こく…と頷いた。
もうその後は、ただ奔流に身を任せた。
熱に浮かされたように平太の名を呼ぶ半助の甘い声を聞きながら、平太は腕の中の体を何度も抱き締めた。
やがて繋がった場所から湧き上がる快楽の波に飲み込まれ、二人は共に高みへと昇り――弾けた。
今は、互いの存在だけが、二人のすべてだった。