■ダブリンとアイルランド共和国■



 驟雨が走った直後に、光が雲間から燦然と漏れ出してくるのは、このアイルランドの空を身近に知っている者の音なのだと、ジャックは思ってきた。シンクレアが実際にこの地を知っていたのはほんの幼少のころであったはずだが、予め血の中に土地の記憶は埋め込まれているのか。あるいは、ウィーンやパリにいて、未だ見ぬアイルランドを追い続けていた音なのか。

 (高村薫 『リヴィエラを撃て』より)


ジャックの母親とシンクレアの生まれ故郷のダブリン。
私が旅したのはアイルランド共和国の方で北アイルランドへは行っていないので、リヴィエラ関係の場所はこのダブリンくらい。
それでもアイルランドの風景は想像よりはるかにイギリスとは違っていて、両国が全く異なった文化と歴史を持つ国であることを改めて感じた旅でした。
参加したバックパッカーツアーのガイドさんがアイルランド人だったのですが、数日間ずっと陽気だった彼が、最後にダブリンへ戻るバスの中で、「今から少し真面目な話をさせてください」と断って1時間近く話されたのが、北アイルランド闘争の歴史でした。「あれはプロテスタントとカソリックの闘いなどと言われるが、そんなものではない。根底にあるのは宗教などではなく、政治です。あれは紛れもなく政治闘争で、そのような闘いで犠牲になるのはいつの時代も市民なのです」と話していたときの厳しい表情が印象的でした。




歴史あるコノリー駅(Connolly Station)外観
北アイルランドからの鉄道は、この駅に着きます。


 インターシティの固いシートに収まってさらに一時間。ニューリーを過ぎて国境を越えたときに、
父はちょっと溜め息を洩らしたが、それ以外は無言だった。そして、ダブリンのコノリー駅のベンチで
また一時間。列車を降りたとき、検札のチェックがあんまり簡単だったので拍子抜けしてしまった父が、
駅構内のパブでラガーをひっかけている間、ジャックは荷物の番をしながら薄暗いベンチに座っていた。
ダブリンは母の故郷だが、もう顔も覚えていない女の面影など思い浮かべる気分ではなかった。

 (高村薫 『リヴィエラを撃て』より)

モダンな駅エントランス
こちらは1990年代に改装されたものとのこと。



ダブリンの街並み
ダブリンは、ロンドンよりずっと土着的な印象の街でした。
イギリスとアイルランドの違いが、それぞれの首都にもはっきりと表れているような気がします。

ダブリンの街並み

【アイルランド旅行おまけ@】
クロンマクノイズ(Clonmacnoise)。
6世紀に建設された修道院の跡地です。


【アイルランド旅行おまけA】
モハーの断崖。
イギリスのホワイトクリフに似ていますが、こちらの方が崖の色が黒い分荒々しい感じ。
この荒涼とした雰囲気がアイルランドの魅力です。

【アイルランド旅行おまけB】
ディングル半島の道路沿いのキリスト像。


【アイルランド旅行おまけC】
キラーニーのアイリッシュパブでアイリッシュコーヒー。
イギリスやアイルランドのパブのこの灯りの暗さが大好きです。




「リヴィエラを撃て」の舞台を訪ねて