「あんた達と一緒にいるとほんと気分がいいわー。ふふふ、ほら、女子がみんな羨ましそうに見てる」
放課後。
中庭の木の下で寛いでいるのは、平太、明秀、美弥、沙希の四人。
沙希は美弥の親友で大抵一緒にいるため、自然とこの四人が集まることが多かった。
「国に許婚がいるくせによく言うぜ。卒業したら結婚すんだろ?」
楽しげな沙希に、平太は菓子をつまみながら呆れたように言った。
「それとこれとは話が別よ。それに彼、残念なことに外見はあんた達ほどイケてないのよねぇ……」
「けっ」
好き放題言ってはいるが、沙希がその許婚とらぶらぶなことを平太は知っている。この目の前の当人からしょっちゅうノロケ話を聞かされているからだ。
「ところで平太。…あんた、どうして特定の彼女を作らないの?」
徐に沙希が、平太の顔をじいっと見て言った。
「なんだよ、いきなり。……沙希には関係ないだろ」
「関係なくないわよ!あんたがいつまでもそうしてるとね、女の子達はもしかしたら自分が…って夢を見ちゃうの。そして彼氏ができるはずの子までチャンスを逃しちゃうのよ。同じくの一としてこの状況を黙って見過ごすわけにはいかないわ」
「その理論、おかしくねーか…」
平太は助けを求めるように明秀を見たが、明秀は自分でどうにかしろという風にニヤニヤ笑っているだけだ。
そんな平太に美弥が助け舟を出した。
「沙希ちゃん、平太君には平太君の考えがあるんだから…」
「美弥、あんた他人事のように言ってるけど、今のくの一の現状はあんたも無関係じゃないんだからね」
「え、私?」
「今まで平太と明秀を遠くから見てるだけだった子まで、あんたが明秀と付き合ったものだから、頑張れば自分でもって思うようになっちゃって。しかも明秀にはとりあえずあんたがいるから、余計に平太の競争率が上がっちゃったの。その平太がいつまでも相手を決めないから問題なのよ」
「…そうなの…?」
「美弥は関係ねーよ」
突然矛先を向けられて困惑している美弥を、明秀が片手で抱き寄せて言う。
(おいおい。俺のときは無視しておいて、彼女にはそれかよ…)
相変わらずの明秀に、平太はがっくりする。
「ま、あんた達のことはどうでもいいのよ。だからね、平太!付き合うだけ付き合ってみなさいって言ってるの。はいっ」
沙希が平太の鼻先に一枚の文を差し出した。
ふわ、とほのかな甘い香りが漂う。
「……なにこれ」
「何寝ぼけたこと言ってんの。恋文に決まってるでしょ!」
「お前から?」
「……殴るわよ。もう。……琴乃よ」
「琴乃ちゃんが…?」
それは平太もよく知っているくの一だった。
そう親しくはないが、何年か前、両手一杯に山のような荷物を運んでいるのを見かけた平太が手伝ってやったことがあり、以来会えば挨拶をする仲だ。
「あんたに渡してほしいって頼まれたの。返事は直接彼女にしてあげてね。あんたのことだから恋文なんて貰い慣れてるでしょうけど、あの子、何年も前からあんたのことが好きだったのよ。ずっと言えずにきたけど、もうすぐ卒業だからって、やっと勇気を出して書いたの、それ。…琴乃はとってもいい子よ。ちゃんと考えてみたら?」
そのとき。
「土井先生」
沙希の声とかぶるように、明秀が言った。
平太がはっと振り向くと、すぐ後ろに半助が立っていた。
(……聞かれたか……?)
「…あ、えっと、話し中すまん。明秀、今日搬入された火薬の確認、悪いが今から手伝ってもらってもいいか?」
半助はいつもどおりの柔らかな口調で明秀に言った。
「ええ、もちろん」
気軽に答えて明秀が立ち上がり、二人は去って行く。
半助の表情に特に変化はなく、平太は、そこに何も読み取ることはできなかった。
「………」
「ちょっと、聞いてるの、平太!」
じっと考え込んでいる平太に、焦れたように沙希が言う。
「あ、ああ……。わかってるよ、直接返事をする。でもな、沙希。付き合うのは無理だ。俺、好きな人がいるから」
「え、、、そうだったの…??」
「ああ」
平太ははっきりと頷く。
「やだ、知らなかった。、、、ごめん!!!私、勝手なことばかり言っちゃって……っ」
沙希が狼狽して謝ると、平太は沙希の頭をくしゃりと撫で、笑った。
「いーよ。お前のそういうところ、嫌いじゃない」
「………」
沙希は平太の顔をじっと見つめたまま動きを止めた。
「じゃあ俺、先に行くな」
平太は服についた草を軽く払って立ち上がると、くの一教室の方角へと去って行った。
「………あいつがもてる理由が、わかった気がする………」
平太の後ろ姿を呆と見送って、沙希はぽつりと呟いた。
平太が触れた髪を片手で押さえて頬を染めている沙希に、
「うん、そうだね。格好いいよ、平太君は」
美弥はくすくすと笑って、頷いた。
格好いいんですよ、平太君は。
ていうか、これ以上オリキャラは増やさないつもり。。。