■トラファルガー広場とナショナルギャラリー■


 坂の下には、大きな石刻の獅子がある。全身灰色をしておった。尾の細い割に、鬣(たてがみ)に渦を捲いた深い頭は四斗樽ほどもあった。前足を揃えて、波を打つ群集の中に眠っていた。獅子は二ついた。下は舗石で敷きつめてある。その真中に太い銅の柱があった。自分は、静かに動く人の海の間に立って、眼を挙げて、柱の上を見た。柱は眼の届く限り高く真直に立っている。その上には大きな空が一面に見えた。高い柱はこの空を真中で突き抜いているように聳(そび)えていた。この柱の先には何があるか分らなかった。自分はまた人の波に押されて広場から、右の方の通りをいずくともなく下って行った。しばらくして、ふり返ったら、竿のような細い柱の上に、小さい人間がたった一人立っていた。

 (
永日小品』「印象」より)



ナショナルギャラリーから見た、トラファルガー広場。
柱の上に立っている「小さい人間」は、トラファルガー海戦で活躍したネルソン提督の銅像です。柱の下には4頭の獅子像があります。
しかし『永日小品』は日常覚書のような作品もあれば幻想小説のような作品もあったりと、不思議な作品集ですよね。大好きです。

「前足を揃えて、波を打つ群衆の中に眠っている」獅子像。
観光客がよくこの上によじ登って写真を撮っています。
後ろに見えているのが、ナショナルギャラリー。

ナショナルギャラリーに展示されている「レディ・ジェーン・グレイの処刑」(ポール・ドラローシュ)。人物が人の等身大くらいある、とても大きな絵です。

男は…磨(と)ぎすました斧を左手に突いて腰に八寸ほどの短刀をぶら下げて身構えて立っている。女は白き手巾(ハンケチ)で目隠しをして両の手で首を載せる台を探すような風情に見える。首を載せる台は日本の薪割台ぐらいの大きさで前に鉄の環が着いている。台の前部に藁が散らしてあるのは流れる血を防ぐ要慎と見えた。背後の壁にもたれて二三人の女が泣き崩れている、侍女ででもあろうか。白い毛裏を折り返した法衣を裾長く引く坊さんが、うつ向いて女の手を台の方角へ導いてやる。女は雪のごとく白い服を着けて、肩にあまる金色の髪を時々雲のように揺らす。
(「倫敦塔」より)


ナショナルギャラリーは私がロンドンで最も好きな美術館のひとつ。
日本でも美術館のカフェは大好きな私ですが、ロンドンではこのNational Cafeが特にオススメです。

冷たくパサパサしたサンドイッチはイマイチですが・・・。
まあ、イギリスで美味しいサンドイッチって食べたことないけど。
でも、ここのレモンケーキは美味しいですょ^^

赤いカップも素敵。

真っ赤な地に「LIFE DEATH PASSION BEAUTY, THE NATIONAL GALLERY」と書かれた美術館のショップの袋。
ほんと、お洒落だわぁ。
日本語大好きな私ですが、こういう風に使われる英語はとてもカッコいいと思う。
もっとも「生 死 情熱 美」と全て1〜2文字で表すことができる漢字も、クールですけどね。

逆光もいい感じ。



倫敦漱石散歩