『一日中、朝から晩まで、半助を抱いていい――?』

 『……いい…よ……』




 (う……、わぁぁぁぁ…・・///)
 
 なっ…、なんちゅう約束をしてしまったんだ、俺は……っ。

 半助は心の中で絶叫して、目の前の鍋をぐるぐると掻きまわした。

 ……い、いやしかし。
 一日中といっても、俺ももう二十五だし……。俺たち、つき合って三年だし……。
 まさかあいつも、本気で朝から晩まで抱くつもりじゃあ……・・
 
 ―――いや、案外本気かも。

 (うわぁぁぁぁ…)

 そうして半助がひとり赤くなったり青くなったりしていると、平太が両手に湯呑を持って土間から戻ってきた。

 「これでいい?」

 「え?――あ、ああ。ていうか、この家にほかに湯呑はないだろ」

 「まあ、そうなんだけど」

 そう笑って答えて、平太はとんと半助の隣に湯呑を置いた。
 その屈託のない様子に。
 …そうだよな、と半助はすこしだけ平静さを取り戻す。

 そもそも、こいつがあの約束を覚えているかどうかも、あやしいものだ。
 今思えば場の流れのようなものだったし。
 今日ここに着いてからも、全然そういう雰囲気じゃないし。

 そう思うと半助は自意識過剰な自分が急に阿呆らしく思えてきて、赤みの差した頬をぱたぱたと平手で仰いだ。

 忍術学園が冬休みに入って三日。
 半助はいま、平太の家に来ている。
 半助の家にはきり丸がいるのでここに泊まるのは一泊だけだが、それでもいつもの週末と違い学園の仕事に追われることなくのんびりと過ごせる恋人との時間に、半助は浮き足だっている自分を認めないわけにはいかなかった。
 満面の笑顔でしめ縄と角松の納品に出かけて行ったきり丸を送り出して、ここに着いたのは日も傾いた頃。
 そして今半助は夕餉後に甘酒を作りながら、休み前に恋人と交わした約束を思い出し、ひとり右往左往していたというわけである。

 「できた!」

 半助は満足げに宣言し、くつくつと音を立てている鍋から顔を上げた。
 酒粕を溶かした甘酒のまろやかな香りが、ぷんと漂う。

 「へぇ、うまそうー」

 「だろ?仕事で東国に行っていた利吉君が、終業式の日に山田先生を迎えに来がてら手土産にくれたんだ」

 うしろから肩越しに覗き込んできた平太を振り返って、半助は微笑んだ。

 「利吉君か。卒業してから会ってないけど、元気?」

 「ああ。ますます男ぶりが上がって、女の子達から大人気だよ」

 「ふぅん…。――俺とどっちが男前?」

 半助の肩に顎をのっけて真剣な顔で聞いてきた恋人に、半助はぱちりと瞬き。
 それから、「なんだ、焼き餅か?」と面白そうに見返した。

 「あの利吉君と女の子の人気を張り合うとは無謀な…と言い切れないところが、お前のムカつくところだよな」

 「…女?」

 平太が怪訝そうに眉を顰める。

 「ちがうのか?」

 「じゃなくて、半助は?半助は俺と利吉君、どっちが男前だと思うの?」

 「はあ?……なんだ、そっちの焼き餅か」

 思わず苦笑いを漏らした半助の体に、平太がうしろから拗ねたように腕をまわしてくる。

 「俺といるのに利吉君を褒める半助が悪い」

 「…俺が悪いのか?」

 「そうだよ、半助が悪い」

 「はいはい、ごめんな。ほら、お前の分。これでも飲んで機嫌を直せ」

 笑ってとろりと白い酒を満たした湯呑を斜め後ろにある尖った唇に押しつけると、本気で拗ねていたわけでもない恋人は素直に両手でそれを受け取り、こく、と口に含んだ。

 「――甘い」

 「甘酒なんだから、当たり前だ」

 半助も自分の湯呑に酒を満たし、口に含む。
 平太が言うように、甘すぎるほどに甘い酒。
 普段はどちらかというと辛くすっきりとした酒を好む半助だったが、冬の季節に呑むこの甘い甘い柔らかな酒は、どこか優しく懐かしく、半助は好きだった。
 ふたりとも酒には強いのでこの程度で酔うということはないが、それでもほっこりと体が温もるのを感じる。

 こく。

 こくこく。


 …………にしても。


 「平太…」

 「んー?」

 「おもい…」

 平太は半助の背中にべったりと寄っかかったまま、こくこくと甘酒を飲んでいる。
 まるで大きな犬のようだ。
 しかしは組の子供たちと違い、十八の男は、はっきりいって重かった。

 「んー」

 そう返事は返ってくるものの、しかしまったどく気配は見られず。

 「どうした。甘えてるのか?」

 片手でかるく前髪を撫ぜてやると、平太はちょっと黙り。
 それから顔を傾けて、半助の耳元に口を寄せた。

 「――半助さ」

 「ん?」

 「休み前にした約束、おぼえてる?」

 「……」

 なんの前触れもなく囁かれた言葉に、半助は動きをとめた。

 「………ぁ…」

 咄嗟に何も返すことができずに、言葉を探す。
 しかしその過剰な反応は、彼の問いに対する何よりも明確な答えとなってしまっていて。
 いつのまにか湯呑を置いていた平太の手が、そっと半助の顔にかかり。
 そして唇が覆われた。

 「……ン…」

 温かな舌が歯列の隙間からそろりと侵入し、半助の舌を柔らかく絡めとる。

 …ちゅ……ちゅく…・・

 「……甘…い…」

 「何が?」

 くちゅり…

 「っ…、おまえの…舌…」

 「甘酒、飲んだから」

 半助の舌だって甘いよ…と笑って、角度を変えて愛される口内。

 「ふ…っ…」

 その口付けは、甘酒のせいなのか何なのかわからないほど甘くて――。
 酒に酔ったように頭が霞に覆われはじめる。
 平太の手が、半助の着物にかかった。

 「へい、た…」

 思わず半助はその手を掴んだ。

 「なに?」

 半助の心の内まで見通しているように、余裕を含んだ響きで返される問い。
 別に何か理由があったわけではない半助は困ってしまい、頭に浮かんだ単語をそのまま口にした。

 「ふ、ふとん」

 音にすると、ひどくマヌケな言葉。
 案の定平太はきょとんと目を丸くし、それから可笑しそうに半助の項に鼻先を押しつけてきた。

 「いらないよ。半助は寒いの…?」

 「…」

 寒いどころか、暑いくらいだった。
 それはもちろん酒のせいだけじゃなく――。

 結局はこんなやり取りも、恋人同士の情交まえの甘い甘い戯れにすぎないことは、どちらも承知のうえ。

 「もう黙って」

 最後のわずかな抵抗が唇で封じられ、もう戯れはお終いだというように今までになく深められる口づけ。

 「ンっ……、…ぅん…・・」

 少しづつかけられる重みに、半助の体からくたりと力が抜ける。

 「半助――」

 低い声音とともに熱い吐息を耳の奥に吹き込まれ、ぞくりと半助の肌が粟立った。
 平太の熱に、半助の体はいつだって素直に呼応する。
 半助の手が平太の背にまわり、二人の体が床の上に重なるように倒れた、そのとき――。


 カタ…ン


 濡れた息遣いに混じって部屋に響いたほんの微かな硬質音に、二人ははっと同時に顔を上げ、静止した。

 「「……」」

 平太が半助の上からゆっくりと体を起こし、軽く半助の頬を撫でてから、土間へと下りていく。
 そして木戸の下に差し込まれた小さな紙片を拾い上げ、そこに目を走らせた後、彼は目に見えてがっくりと肩を落とした。
 戸外に既に人の気配はなく。

 「―――ごめん、仕事が入った」

 「あ………、そうか…・・」

 戻ってきた恋人から告げられた九割方予想していた内容に、それ以外に言うべき言葉が浮かばず。
 のろのろと体を起こすと、平太が屈んで、乱れた服を整えるのを手伝ってくれる。

 「――どれくらいかかりそうなんだ?」

 「なんとも言えないけど…、五日ぐらい、かな…」

 溜息をついて答えた平太に、半助も内心で溜息をつく。
 次に会えるのは新年、ということだ。

 「本当に、ごめんな」

 「謝ることじゃないだろう?仕事なんだから、仕方がないさ」

 まだプロになって数年のフリー忍者に年末など関係ないことは、誰よりも承知している。今は舞い込んだ仕事は端からこなしていかなければならない時期だ。
 そして何より平太自身がひどく落胆しているのがはっきりとわかったため、半助は自身の落胆を隠して軽く微笑み、服を整え終えるとすぐに上着を掴んで立ち上がった。

 それに半助にはいま、緊急に解決を要するとある問題があった。
 というのも、半助の体は、先程平太から受けた接吻によってすっかり昂ってしまっていたのである。
 だが仕事のショックで先刻の行為など忘れたかのような恋人に、どうにかしてくれなどと頼めるわけがなく。

 早く、ここを出ないと。
 そして早く処理してしまいたい、このどうしようもなく身を焦がしている熱を。
 彼に気づかれてしまう前に――。

 「…じゃあ、俺はこれで」

 それだけ言って早々に去ろうとすると、「あ、半助!」と呼び止められる。

 「もう遅いし、半助は泊まってけよ」

 「いや、お前がいないのなら、帰るよ。きり丸も待ってるし」

 「なら、まだ指定の時間まで半刻くらいあるし、一緒に出よう」

 (〜〜〜〜たのむから早く帰らせてくれ…!!)

 「色々準備があるだろう…?」

 「準備なんて大した時間はかからないよ」

 「でも…、やっぱり帰るよ」

 「半助?」

 「じゃあな」

 平太の方を見ようともせず焦ったように戸口へ向かおうとする半助の不自然さに。

 「――待って」

 今度は有無を言わさぬ声音で、きっぱりと呼び止められてしまった。
 半助の足がびくりと固まる。
 ゆっくりと平太が歩み寄るのを、半助はもう黙って待つしかなかった。

 そっとうしろから腕がまわされ、抱き締められる。

 (っ…)

 半助は強烈な羞恥を堪え、ぎゅぅっと目を瞑った。
 隠しようのない、熱くなってしまっている体――。

 「半助」

 「や、だ…へいたっ」

 抵抗も空しく、服の上から熱の中心を確かめられ。
 喘ぎのような切ない吐息が、堪えきれずに口から零れ出る。
 気を抜くとすぐにでも達してしまいそうだった。

 「―――こら。どうしてちゃんと言わないの」

 逸らそうとする半助の頬を両手で包んで上げさせ、叱るように囁いた平太に。
 半助は涙をいっぱいに溜めた瞳でにらみつけた。

 「いっ、言えるわけないだろう!お前はこれから仕事だって言ってるのに……」

 すると平太は、何かを言いたそうな目で半助をじっと見た。
 しかし結局何も言わずに、頭を抱き寄せられ、胸に抱かれる。
 「ごめんな、気づけなくて」

 「も、いいから…離してくれ…っ」

 半助は泣きたくなった。
 本当に、こうして平太に抱き締められているだけで、半助の体はもう限界なのだ。
 このまま達してしまうようなみっともない事態だけは、絶対に避けねばならない。
 しかし。

 「こんな状態の半助を離す…?―――冗談だろ」

 平太はそう言い切ると、半助の体を抱き上げるようにして莚のうえに座らせた。
 それから両脚の間に自分の体を割り込ませ、半助の着物の前を緩く寛げる。

 「あ……こ、こんな……」

 今更とはいえあまりに露骨な体勢に顔が真っ赤になった半助に、平太は少しだけすまなそうに苦笑し、掌を優しく半助の顔にのせ、瞼を閉じさせた。

 「目、閉じてて――」

 そして。
 高められるまでもなく昂りきった熱の、今にも零れそうな雫をちゅ…と小さく吸われ。
 半助は鋭く声を上げ、鳴いた。
 快楽と羞恥と混乱、そして待ち望んでいたものをようやく得られる安堵が、半助のなかで入り混じる。
 そうして平太に身を委ねた半助だったが、しかしすぐにでも達してしまいそうだったそれは決定的な刺激を与えられないまま、切なすぎる接吻が繰り返されるだけで。

 「ンン…ん…・ンッ…」

 なかなか許されない絶頂に、とろとろと止め処なく溢れ出る快楽の証。

 「ぅ…ん…っ」

 無意識に腰を浮かせてしまうと、可愛い、と最も敏感な部分を舌先で擽られ。

 「くぅっ…ん!…ぁ……あぁ…」

 これ以上は耐えられそうにない甘すぎる渇望が体中を駆け巡り、半助は解放を求めて平太の肩をぎゅっと強く掴んだ。

 「もう、いきたい…?」

 意地や羞恥よりも達したい欲求の方が遥かに勝り、涙を滲ませて正直に頷くと。

 「ごめんな、本当はちゃんと抱いてあげたいんだけど――」

 平太はそう囁いて、緩く開かれた半助の脚の間に素早く手を潜らせた。
 軽く探るように動いた指先が、うしろの、いつも彼を受け入れているその部分に触れる。
 長く待ちわびて既にひくひくと蠢いていたそこを、指の腹で優しく愛撫され。

 「ぁ…」

 かぁっと、頭の隅に追いやられていた羞恥が一瞬にして戻ってくる。

 「あ…あ…」

 「何も考えないで――」

 そして。

 「ん…ッ」

 ゆっくりと内部に挿入される指に、限界まで焦らされていた体は疑うことなく平太自身に抱かれているように錯覚してしまい。


 「っ…ンンーーーーーー…!!」

 気が遠くなるほどの絶頂感に全身を襲われ、平太の指をきつく締めつけて、半助は達した。






 「あ…」

 ゆっくりと指が抜かれてゆく感触に、思わず声が漏れる。
 微笑む気配がし、無意識に締めつけてしまう内壁をあやすように撫でられるのも、望んでいたものを得られた今ではただ気恥ずかしく。

 「っ……。はぁ…」


 指が完全に抜かれてほっと息を吐いた半助の傍らで、平太は半助の吐き出した精で濡れた手を手拭いで拭っている。
 それをぼんやりと眺めていた半助は、はたと我に返り、慌てて目を逸らした。

 (……まともに抱かれるより、遥かに羞恥が強いのはなぜだろう……)

 そしてようやく呼吸が落ち着いてきた頃、ふと、あることに思い至る。
 半助は絶頂後の疲労感に満たされた体をのろのろと起こし、平太を見つめた。

 「なぁに、半助?」

 平太が優しく見つめ返す。

 「…お前、は…?」

 「え?」

 「お前だって……、その……まだ、だろ…」

 言いづらそうに口を濁した半助に、ああ、と平太は会得した顔をした。

 「俺のことは気にしないでいいよ。なんとかするから」

 「なんとかって」

 「…・・」

 聞き返した半助を、平太は困った子供を見るように苦笑し、じっと見上げているその頬に軽く触れた。

 「言わせないでよ。自分でなんとかするってことに決まってるでしょう?」

 その答えを聞いて、半助はきゅっと唇を引き結び。
 そして無言で平太の正面にまわり、先ほど彼にされたのと同じように彼の着物の前を寛げた。
 突然そんな行動をした半助に、平太が目を丸くする。

 「ちょ…」

 「まだ、時間は大丈夫だろ…?」

 「けど…」

 「黙ってろ」

 「っ」

 下帯を緩め、昂っている平太の熱を確認し、少しほっとして。
 半助は、そっと唇を寄せた。
 戸惑いなど、まったくない。

 「半助」

 「黙ってろって言…」

 しかし半助の唇がそこに触れる寸前に、平太は半助の体をずり上げるようにして自分の腕に抱いた。

 「―――この方がいい」

 「……」

 「口じゃなくて、いいから…」

 耳元で囁かれ、首筋に口付けられる。
 その口付けに助けられるように。
 半助は少しだけ緊張しながら、平太の熱へと手を伸ばした。

 「…っ」

 指先が触れた瞬間、びくりと平太の肩が跳ねる。
 ゆっくりと、半助は指を動かし始めた。

 「…っ…ぅ」

 平太の手が半助の髪に伸ばされ、愛おしげに撫でられる。
 その心地よさに目を細めながら、半助は平太の反応を覗いつつ、愛撫を続けた。
 こうしてぴたりと互いの体を合わせていると、不思議なほど今彼が感じている快感がわかる。
 まるで自分のことのように。
 彼が自分を抱いているときもこういう感じなのだろうか、と半助は思った。

 「ん…っ」

 「いいのか?平太――」

 撫でられていた髪が突然ぐっと握られ、そこに彼の余裕のなさが感じられて、半助は囁いた。
 首筋にあたる息が熱い。

 「っ…いいに、決まってんだろ…。半助が…こうしてくれてると思うだけで、おかしくなる…っ」

 先程散々焦らされた半助は、自分も同じようにこの恋人を焦らしたい欲求にかられた。
 しかし時間が限られていたし、何よりも半助の手によって息を乱す彼が愛おしくてたまらなかったので、今は快楽のみを与えることに専念する。

 「ぅ…半助っ…」

 肩口に額を強く押し付けられ、うっすらと汗をかいた肌の匂い。

 「平太――」

 名を呼ぶと、平太は息を上げたまま、顔を上げた。
 視線が合って。
 半助は愛おしさを抑えられずに、口付けた。
 口付けを深め、平太が応えるままに舌を絡め、求められるままに指を動かす。
 平太の舌が熱くなっている。
 それとも、自分の――?
 「い…く…っ」

 何かを堪えるような声をとともに、彼は半助の手の中に熱を吐き出した。


 自分も上がってしまった息のまま、脱力してもたれかかってくる心地よい重みを受けとめる。
 彼の口から零れる熱い息が首筋にかかり、半助は目を閉じた。
 湯水のように心の奥から溢れ出てくる平太への愛情――。

 「…休みの間に…もう一度会える…?」

 「ああ。仕事が終わったらうちにおいで。きり丸と雑煮を作って待ってるから」

 答えてやると、平太は行為の名残の艶を残しながらも、明るく嬉しそうな笑顔を見せた。





 「じゃあ行ってきます」

 「ああ。気をつけてな」

 二人の行き先は逆の方向なので、戸口の前で別れる。
 そして半助に見送られ数歩歩いた平太は、ふと立ち止まり、くるりと振り返った。

 「半助。その……ありがとな」

 少し照れくさそうに微笑んだ平太に。

 「あ、…うん」

 半助も顔を赤くして、軽く頷いた。





 平太の姿が完全に見えなくなったあと。
 半助ははぁぁぁぁ、と長い息を吐き。

 「……あ、あぶなかった……・・」

 少し赤みの引いた頬をぽりぽりと掻きつつ、ぼそりと呟いた。

 快楽に耐える艶やかな表情。
 熱い吐息。
 赤みが差した頬。
 熱を孕んだ目――。

 「…もしあいつが仕事じゃなかったら、確実に押し倒してた…・・」



 “知らぬが仏”、とはまさにこのこと。
 年が明ければ、二人が出会って四年目の春がくる。








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「冬芽」:晩夏から秋に形成され、休眠・越冬して、春に伸びて葉や花になる芽